赤緑世代なので田尻智さんのインタビュー本・『 ポケモンを創った男』(宮島太朗+田尻智)を読む。【感想/レビュー】

「ポケモンを創った男」宮島太朗+田尻智(メディアファクトリー/MF文庫)。ピカチュウのイラストが描かれた紙のそばには、のちに共にLets goするイーブイのイラストも描かれている(※このページで引用している画像はすべて本書からのものです)

入手に苦労しましたよ…。

ですがやっと手に入りました。田尻智さんの本、「ポケモンを創った男」です。初代ポケモンの制作秘話やイメージイラスト、そしてポケモン以前に作ったゲームの話など、盛りだくさんのこの本。

早速レビューがてら通読させていただきます。

レビュー&感想

アニメーション

さていきなり巻末らへんを読みます。なぜかっていうと↑の図のように、ポケモン赤緑を制作する際のアイデアノート的なページがその辺に固まっていたからです。このアニメーション…懐かしいですね。初代ポケモンのオープニングの絵コンテです。

子供時代は何気なくただ眺めていましたが、様々な文字(メモ書き)が書かれているこの絵コンテと合わせて見ると、

「ああ、大人が頑張って苦労して、あのわくわくするオープニングを作ってくれていたんだなあ」

と感謝の気持ちがこみ上げます。

…とおもっていたら…。

没モンスター?

「ウルトラ怪獣かっとびランド」っていう漫画に出てきた「カネゴン」みたいなキャラのイラストが。これは「転送アニメ」と題されている通り、通信交換時に別ソフトへ移動したときの絵コンテでしょうか?

「NO.211 パピョー」と名付けられたこのポケモン…。果たして、本来マジで本編に出現する予定のポケモンだったのか、それともこの絵コンテの例として描いただけの、ただのイメージ用のキャラなのか…。

全ては謎です。

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開発中のイメージイラスト

さて続いてもイラストです。トレーナーらしきキャラたちが鞭をふるっています。現在のポケモンのイメージとはかけ離れていて、「野性味が残っている怪物たちをがんばって言うことを聞かせている感」を感じました。

そういえば「赤緑」(製品版)の頃はもっとこういう「モンスター感」がありましたよね。図鑑の説明文とかも「人間に危害を加える」的なことも書いてた気がするので、最初期はやっぱりこういうイメージがあったんでしょう。

色々と学びの深いイラストです。


ポケモンセンターの初期案

これはなかなか興味深かったですねー。90年代前半~中盤に流行っていた、ファンタジー系のロープレでありがちな「宿屋」じゃないですか…。一応「HOTEL」という横文字でおしゃれな感じは醸し出してますが、それはいわば直訳すれば「宿屋」ですからね。

ただ製品版同様、受付にはきれいなお姉さんがいますね。「ジョーイさん」的なキャラがこのころから構想にあったのか気になります。
奥には2階に続く階段が見えますが、客室用のスペースがその先にあるのか、それとも構想段階では考えられていたほかの何かの要素が待っているのか…。

ラフ画を見ながら妄想を働かせるのもまた楽しいですね。


…と少しだけイラストを見たところで、イラストレビューは終了です。

(※本書には他にもイラストが載ってるんですが、さすがにレビューとはいえそんなにたくさん引用できないので…)

ここからはいよいよ、ポケモンの生みの親・田尻智さんのインタビュー(対談)を一部引用しつつ、あーだこうだと感想を述べていきたいと思います。まずは、「ポケモンの世界」を一から構築したという話から。

「マザー」や「ドラクエ」の世界観とは違う、ポケモン世界

田尻 ~(前略)~『ドラゴンクエスト』のように騎士英雄伝を題材にしたゲームがあって、それに対して異議を申し立てた『マザー』があって――――『マザー』は、現代の少年を主人公にしたロールプレイングゲームだったけど、その『マザー』ですら、舞台はアメリカ郊外の田舎町。 そこが舞台で、主人公は私自身であるということにまだ違和感があったんだよね。


それで僕が、プレイヤー自身が主人公であるゲームを作ろうと決意したときに、ポケモンの『ポッポ』みたいな、ああいう普通の動物を思わせるようなキャラクターまで許容して、みんなそれぞれが個性を持ってるっていう世界を考え出したわけなんだけども。


--そこのところをもう少し突っ込んでうかがいたいんですけど、『ポケモン』の風景のあり方自体、すごく日本的ですよね。


田尻 そこはすごく意識しました。つまり、僕くらいの人間にとって、自分の投影だと思っていたものの多くが、アメリカの文化の象徴であったり、そういうものに置き換わってる気がするんだよね。~(中略)~だから、糸井さんがロールプレイングゲームの狭量なテーマの持ち方に異議を唱えたのと同じように、僕はマザーとそれ以前のゲームに対して、異議を唱えてみようと思ったんだよね。


僕はこの文章を読むまで誤解していました。

今まで、田尻さんは「マザー」の世界を全肯定している人だと思い込んでいたんです。

以前誰かのブログか何かで『田尻智は「マザー」にあこがれてその世界観を借りてポケモンを創った』みたいな記述を見て、何の疑いもなくそれを信じていました。

もちろん一部影響を受けているかもしれないですが、なんていうか「マザー」のアメリカ的な世界ではなく、田尻さんが直接肉眼で見てきた「日本の風景」…いや「幼少期に見た風景」をポケモンに落とし込んでいたんですね。

「ポケモン」は「マザー」なのではなく、「ポケモン」はやっぱり「ポケモン」だったんだなあと感じました。
影響を受けたのはむしろ、「糸井さんの姿勢」なんですね。「マザーそのものに対して」じゃない。

「自分で自分の世界をもう一度整理する・認識しなおす」

「ロールプレイングゲームの命題(テーマ、世界観)について洗いなおす」

そういった思考そのものに対するリスペクトだったんですね。この本を読むまでずっと勘違いしていましたが、このパートを読んでようやく真意を理解できた…かもしれません。

(まだ何か思い違いしているかもしれませんが…。)

幼少期からの認識を組み直し、『ポケモン』は生まれた

田尻 (前略)「自分自身のリアリティって何だろう」って考えることが大事なんだよね。それがアメリカ文化に違いないって思っている人も多いし、それをあえて否定する必要はない。そういう現状はあるんだから。

僕自身『ポケモン』を作ってるとき、「自分の認識の原点とは何か」っていうのを振り返ると、日本とか海外というのとは別の、何か外的な存在がある。いわゆる怪物じゃなくて、それが昆虫だったり、動物だったり、他人だったりする。

幼少期から振り返って、もう一度そういうふうに認識を組み立て直してたことが、『ポケモン』の原点になるんだよね。

この辺りを読んで思ったのは、「五感で直接得た情報を大事にしたい」という思いでしょうか?

やはり「自分の認識を改めなおす」「自分自身のリアリティについて考える」

というようなことが語られていますが、先ほど引用した箇所ではわからなかった部分もわかってきて面白かったです。

アメリカ文化そのものに対しての否定は無いんですね。

そこから考えると、「そういった環境(アメリカ)でもともと育った人についてはその世界がリアルだからオッケー」という意味でしょうか。

はたまた、「ある程度海外の文化が知らず知らず日本に入り込んできてるわけで、子供のころからそれを見てる人にとってはそれがその人のリアル」という意味なんでしょうか?

僕は個人的には、田尻さんが言わんとしてることは前者ではないか、とか思っているんですが…真相はどうなんでしょう。「たぶん合ってるよなあ…いや違うか?」と引用個所を何度も読みつつ、色々考えるのが楽しいです。

オウムとノストラダムス

本書のなかで、珍しく社会問題や事件に対して熱く語っている箇所があります。僕個人としてはそういった話は苦手なのですが、明るく楽しい話が目立つ本書の中でどうしても異質に感じたので、この箇所についても感想を書きます。

ーーー田尻さん個人としては、別にそれほどインパクトを受けることではなかった?


田尻 僕自身が一番感じたのは、オウム自身が、ああいうふうに事件を起こして瓦解することの背景に、なにかまだあまり語られていない問題があると思うわけ。さっきの『デビルマン』もそうだし、あとは『ノストラダムスの大予言』とかさ。世紀末史観っていうか、「世界が終わる」って不安を煽って、それをビジネスにして儲けていた人たちがいるわけじゃない。そういう社会不安のひとつが、オウム真理教のような形になったんだと思うわけ。

でも、その前に1999年に世界が終わるって言ってたやつは誰なんだ、と。五島勉以外にもいっぱいいる。そいつらが悪いんじゃないか、と。


ーーーあはは(笑)。


田尻 世の中が悪くなる、悪くなると不安を煽っていた人たち、全員出てこいと。解決案を示さずに「終わる終わる」って言ってた人たちが犯人なわけで。

「ノストラダムスの大予言」ってありましたね。あれは何だったのでしょう。

「1999年7の月」から逆算して、「あと〇年しか自分は生きれないかもなあ。でもその時には自分はもう中2だし、なんか遠い未来って感じがする」と思っていたことがあるんですが、…あっというまに2021年(35歳)になってしまいました。時の流れは本当に早いなあと痛感します。

当時の僕は「そういう説もあるんだなあ」といった感覚だったと思いますが、それを本気で信じていた人もいたんですよね。
そのなかでもそれを「特に信じた集団」もいて…。

そういえば「ポケモン」のゲーム内でも「ある一つの定説やモノの考えを徹底的に信じる集団」というのは過去作に何度も登場しましたが、…さすがにこの話とは関係ないかなあ?

少なくとも本書の中では田尻さんは、そういった(実在の)集団をモデルにした団体をゲーム内に登場させたことがあるとは言っていないので、ただの偶然かもしれません。

総じて、田尻さんが「あの時代」や「シリアスな事件」に対して語ったのが珍しく、印象に残ったため取り上げさせていただきました。

おわりに~本書の良かったこと、重要な注意点など~

ということで、田尻智さんの「ポケモンを創った男」の感想を書いてきましたが、最後にちょっと付け加えたいことがあるのでそれを書いていきます。

まず本書を読んでよかったなと思ったのは、発売前のラフ画や絵コンテなどを垣間見れたことです。こういったものを読みながら、「ああ、これがいずれ大ヒットするポケモンの草案だったんだなあ」と感慨にふけったりするという孤独な欲求を満たしてくれたのが最高でした。

さらに「外部からの影響ではなく、原初体験から認識を組み立てなおす」という考えは自分自身も常日頃大事だと思っていて、なんだったらこのブログもそういった側面がある(大げさ?)ので強く共感できました。

ただ、いっぽう。

一つ大きな注意点があります。それは、本書は「さいしょっから最後までポケモンの話題で展開されてる本ではない」ということです。

田尻さん個人のことや、ゲームフリークという会社の成り立ちなどがかなりのページ数割かれているからです。

僕自身は、「むしろそれも知りたかった」「そもそもゲームフリークってなんなの?(どんなゲームを過去に作ってた?)」「イラストレーター(杉森健さん)や作曲家(増田順一さん)とはどこで知り合い、どんな関係だったんだろう」と考えていた人間なので、全編無茶苦茶興味深く読めて満足なんですが、

「ポケモン本」

と思って買った人は、「あれっ、ポケモンの話に至るまで結構前段があるなあ…」とびっくりするかもしれません。

なので、そこだけは注意して本書と向き合ったほうがいいんじゃないかなあと感じています。

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追記~ダイパリメイク発表~

ダイパリメイクがついに発表されましたね。

赤緑世代の自分としては、Pokémon Dayが初代の発売日である2月27日であることが誇らしい(?)のですが、その日に公式動画がアップされたようです。

「イルカ」という会社が開発しているらしいんですが、「ポケモンHOME」にもかかわっているようで、ポケモンとはそもそも無関係ではなかったみたいですが、今後どうなるんでしょう?

「サンムーン」とも「ピカブイ」とも「剣盾」ともビジュアルイメージが全然違っていることにめちゃくちゃびっくりしましたが(そしてなぜかふたたび2頭身に戻っていたりしている)、それとは別に「レジェンズ」っていう、シンオウ・エピソードゼロ的な作品も発表されて、色々謎過ぎます。


僕は直撃世代ではないんですがダイヤモンドパール自体が好きで既プレイなので、続報がけっこう楽しみです。(その前にスイッチ本体買わなきゃですが)