バトル漫画への路線変更を打診されたことについて。「密リターンズ」(ジャンプ)作者八神健さんのインタビュー感想
かつてジャンプには「密・リターンズ!」という漫画が連載されていました。
つい最近、そのマンガが懐かしくなって、ぺんぎん書房からでている愛蔵版の1巻を入手。
「やっぱ面白いなー」
なんて思いながら読み進めていたら、なんと巻末に作者の方(八神健さん)のインタビュー記事が!
連載当時に「バトル漫画への方向転換」を打診されていた話などが当時の心情とともにかなり詳しく書かれていて、興味深かったのでその感想を書きます。
長期的な構想は捨てた
※『』内は引用
『(前略)~アンケートの結果次第では、長期的な構想はあっさり捨てなければならなかったり。連載開始当初には、終盤の理都探しの展開はもちろん、密が元の体に戻る展開も構想になかったですから。
連載始めた当初は、実は源五郎の姿のまま理都との恋をまっとうすると、そのつもりで描いてました(笑)。』
―――
この部分を読んでて一番びっくりしたのは「源五郎の姿のまま…」という箇所ですね。
当時リアルタイムで(ちなみに、小学生でした)この漫画を読んでる時には、まさか連載開始時のプランで「源五郎のまま最終回を迎える」計画だったなんて思いもしませんでした。
密リターンズは、
・序盤は「源五郎(端島)・理都・鶫原・烏丸の恋愛パート」
・中盤は「端島密の体に戻るための転生の儀式パート」
・終盤は「端島の探偵パート」
…とかなり多面的な魅力を一つの作品内で見せる漫画だったのですが、中盤以降はごっそりなかった「はず」のことだったんだなあ…。
序盤、風(ルン)という体内エネルギーに関して詳しく触れたりしていたので、てっきり中盤に「風(ルン)に異常をきたして体が崩壊しそうだから元の体に戻る」という展開も、計算ずくだとばかり思っていました。
当時はかなり四苦八苦しながらストーリーにつながりを持たせるため頑張っていたのでしょうね。
※ちなみにですが、個人的には、端島が源五郎の体のまま「四角関係」を演じる序盤の展開のまま(当初の構想どおりだったら多分この道でしょう)突っ切るバージョンも読んでみたかったですね。中盤も終盤も大好きだし、それぞれ違った魅力があるので単純比較はできないんですが、それでもどれかを選べと言われたら僕は序盤の展開が特に好きでしたから。
担当さんからバトルモノへの路線転向を促される
『そうそう、週刊連載も始めたのも初めてなら、打ち切りをくらったのも初めてということになりますね(笑)。
終盤、アンケート的にそろそろやばいぞ、となってきて、いよいよ担当さんがバトル物への路線変更を言い出したんです。それまで散々避け続けてたんですけど、もう追い込まれて精神的に限界が近かったんで「ええいダメ元でやったるわ!(ダメだと思うけどね)」とばかりに、そういう方向に話をもってったんです。』
『で、ある週、~(中略)~うんうん唸って考えてるところに担当さんから電話。
八神「な、何とか考えました」
担当「いや…あと3週で終わらせて」
八神「わかりました」』
―――
いやはや、すごいエピソードですね。
僕が小学生当時からあった、
「人気がなくなるとバトル漫画に変わる」
という噂は、都市伝説なんかじゃなかったんだ。
少なくとも、八神さんのインタビューが事実ならほんとのことなんでしょうね。
(注・全ての漫画がそういう打診をされたかはわかりません)
八神さんいわく、担当さんから、
「幽遊白書の成功例があるから」
という根拠(?)を元に「密・リターンズ!」もその方向にテコ入れすればイケるというような話をされたとのこと。
確かに「幽遊白書」も、序盤は転生モノですが、明らかに「恋愛」に焦点を当てていた「密リターンズ」と「幽遊白書」は似て非なる漫画。しかし担当さんの中ではこの二つの漫画は一緒(同じようなモノ)という考えがあったのでしょうか?
もしそうなら、「幽白」みたいにバトル展開へ進めばヒットできる(かも)という考えも納得できなくはありません。
ただやっぱり成功パターンは必ずしも当てはまるとは限らないんですよね…。
その後『あと3週で終わらせて』という電話が来たということは、やっぱり「これからバトル漫画になりますよ」というのをにおわせても人気が上がらなかったからなのではないでしょうか。
ちなみに、八神さんは度重なる路線変更で得たものもあると語ります。
路線変更で得た思わぬ収穫
『連載中は~中略~もともとの構想にはなかった展開になったりもしてるわけですが、そのおかげで密は元の身体に戻れたし、源五郎も救うことができた。このあたり当初の構想より面白くなったと思っているくらいです。
構想を変更するからには変更前より面白くしようと、それこそ必死で話を考えてましたから。』
―――
「構想より面白くなった」…。
こういう言葉が本人の口から出てくると、あながち「アンケート方式」や「路線転向」もメリットがあるのかもしれません。
確かに密が自分の体に戻るまでのストーリーは、
・心を閉ざす源五郎に端島が語りかけるシーン
・儀式に向かう途中、峠でチキンレースに挑む理都
・改心したレディース総長が見ず知らずの他人のために奮闘
など、かなり感動できるシーンのオンパレード。
さらに、終盤では文字通り予想もつかない展開―――過去の壮大な歴史を振り返っての大団円―――もあるわけですから、必ずしも当初の予定通りに進ませることがすべてとも言えなさそうです。
おわりに~余談
中古価格 |
巻末のインタビューを振り返りながらざっと感想を書いてきました。
インタビューはこれがすべてではありません。僕が個人的に特に気になった箇所だけピックアップしました。
全文が知りたいマニア(!?)の方は僕同様、ぺんぎん書房版 (Seed!comics)のを探してください。