スピッツの独白本・「旅の途中」を読む。【感想/レビュー】

「旅の途中 」スピッツ・著(幻冬舎) 。デビューから「さざなみCD」あたりまでの活動についてメンバー自身がかなり詳細に語った本 ※このページで引用している画像と文章はすべて本書からのものです(ただし「ヒバリのこころ」の歌詞からの引用は除く)

僕はスピッツが好きです。

中学生の頃「RECYCLE」というタイトルのベストアルバムを聴きまくっていたことがありました。それをきっかけに他のアルバムも聞きたいと思い全てのオリジナルアルバムを聴くようになりました。

そして時は流れ…。

この本と出合いました。

単なるインタビュー本だろうと思って舐めてかかっていましたが実はこの本はかなりディープな内容でした。それこそ今まで出してきたオリジナルアルバム一作一作に対する思いやその時々の楽曲製作についての葛藤を赤裸々に語っていました。

「これこそ自分が求めていた本じゃないか!」

そう思いつつ何度も読み返しているこの本。引用したい箇所はたくさんありますがその中でも特に自分が驚いた部分に関して感想を書きたいと思います。

感想&レビュー

本書の目次

↑本書の目次ページ。約300ページのほとんどがメンバー自身による独白で埋め尽くされている

路線変更の葛藤

『Crispy!』からシングルカットした「君が思い出になる前に」がリリースされると、オリコンの週間シングル・チャート三三位に入った。初のチャート・インだった。いざ、入ってみると嬉しいことは嬉しいけど、複雑な気持ちになった。
「君が思い出になる前に」にはスピッツ本来のひねくれた感じが一切ない。歌詞の内容もストレートでわかりやすい。自分でも作りすぎなんじゃないかというくらい、ホンネを隠して作った歌だという感じがした。メロディーとかストイックな感じのアレンジは好きだったけど。
ーーーやっぱりこういう曲が売れるんだな。

※文字の着色は筆者<このブログの管理人>によるもので、原文に着色はありません

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まずはこのページ↑。

路線変更に対する悩みについて草野さんが吐露したところを引用しました。

冒頭で書いたとおり僕は「RECYCLE」というアルバムで初めてスピッツを本格的に聴きました。1曲めに流れた「君が思い出になる前に」を聴いた時になんて美しいメロディーだと感動したものです。

しかし作詞作曲者である草野マサムネさんはこの曲に対して複雑な思いを抱いていたと知り、なかなかに衝撃でした。

そういえば、

草野さんはデビュー曲のヒバリのこころの時点でぶっ飛んだ歌詞を書いていました。

魔力の香りがする緑色のうた声

※シングル「ヒバリのこころ」(ポリドール)より(作詞・作曲 草野正宗)

こんなフレーズを1stシングルのサビに入れる人はあまりいないと思います。そういう天才的なセンスを持っている人からすると大衆に目線を合わせた曲を作ることには葛藤があったのかなあと感じました。


ところで路線変更といえば「密・リターンズ」を思い出します。

やはり90年代に、週刊少年ジャンプで密リターンズというラブコメが連載していたんですがその作者の人も同じように悩んでいました。彼もジャンプで連載中アンケート(の票)が取れなくなり、編集者さんからバトル漫画の路線変更を打ち出され、葛藤していたのです。(※)

バトル漫画への路線変更を打診されたことについて。「密リターンズ」(ジャンプ)作者八神健さんのインタビュー感想

音楽にしても漫画にしても読んでいる側からすると普通に楽しむだけでしたが、クリエーターの人はこういった悩みと折り合いをつけながら何とか頑張っていたのでしょうね。

今更ながら敬服します。

「フェイクファー」でのスランプ

『フェイクファー』は作詞作曲も、アレンジに関しても、すごく疲れたという記憶がある。
歌入れギリギリまで歌詞ができあがらなくて、ブースの中にまでノートと鉛筆を持って入ったくらいだ。どうやって曲を作ったらいいか、どんな詞を乗せればいいか、自分でもわからなくなっていた。

※文字の着色は筆者<このブログの管理人>によるもので、原文に着色はありません


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続いて引用したのはこちら。↑
フェイクファーというアルバムについて語る草野マサムネさんの記述です。

フェイクファーが納得のいく出来ではなかったということは知っていました。2002年に発売されたリマスタリング盤フェイクファーのライナーノーツにそのようなことが書いていたからです。

しかし正直草野さんがここまでのスランプに苛まれていたというのはこの本を読んで初めて知りました。

僕的には表題曲になった「フェイクファー」を始め「仲良し」など好きな曲がたくさんあったため驚きました。切ない歌詞やメロディ、そしてロック的な曲がうまい具合にブレンドされた不思議なアルバムで個人的には気に入ってるんですが本人は霧の中を彷徨うような気持ちで制作していたのかもしれません。

(少なくとも本文を読んでそう感じました)

「ハヤブサ」以降音が変わった理由

宇多田ヒカルさんのデビューシングル「Automatic」が出たばかりの頃、NACK5でパワープレイになっていて、歯医者に通うクルマの中でいつもかかっていた。
すごいシンガーが出てきたな。

すぐにCDを買って、しばらくハマって聴いていた。そんなとき、「Automatic」のあとにスピッツのCDを聴いて、自分たちの音のショボさに愕然とした。
~(中略)~
それに、海外のバンドの音だって、スピッツのCDの音とはかなり違う。その理由は、やはりレコーディングとミックスダウンにあるとしか考えられなかった。
エンジニアを探そう。そうすればヒントが見つかるかもしれない。

※文字の着色は筆者<このブログの管理人>によるもので、原文に着色はありません

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(またまた草野さんの記述から引用です↑)

ある時期からスピッツの音は変わりました。
アルバムで言うなら「隼(ハヤブサ)」以降。このアルバムから急激に音がクリアに、綺麗になっていったのを実感しました。

しかし当時の僕は思いました。

なんでいきなりこんなに音が変わったんだろうと。

何度も言うように明らかに音が違うんです。明らかに。直近で出ていた「フェイクファー」や「花鳥風月」と聴き比べるとびっくりするぐらい違います。大袈裟でなく別のバンドやアーティストの曲を聴いてるんじゃないかと思うぐらい。

当時はどうしてこんなに激変したのか全く分かりませんでしたが一気に謎が解けました。

そしてそのきっかけが宇多田ヒカルさんだと知って二度驚きました。この本を読めば宇多田さんの曲との出会い以前にも草野さんが楽曲の響きに悩んでいたことは分かります。しかしその悩みや葛藤がピークに達したきっかけが宇多田さんだとは。

この二人が自分の中で繋がらなかったのでこの記述は結構驚きました。

…本当はさらに詳細に引用したかったのですが一部だけ引用しました。僕と同じような疑問(なぜ音が変わったのか)を抱いていた人にはこの章はかなり興味深いと思います。

おわりに

これで感想はおしまいです。

他にも引用したい箇所はかなりたくさんあり、どこを引用しようかものすごく悩みました。僕は草野マサムネさんがその時々にどう思っていたかに一番興味があったので草野さんの記述(の一部)だけを引用しました。

しかしいざ読んでみると他のメンバーの記述にもなかなか興味深いものが沢山ありその辺も読み応えがありました。

スピッツのオリジナルアルバムが好きで一枚一枚聴き込んでる人にほどおすすめしたい一冊です。

※逆にベストアルバムをさらっと聞いているだけの人にはあまりお勧めできない内容かもしれません。

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